『けい、だから。』
「……何が?」
『俺の名前。ほたるじゃなくて、けいだから。』
「……天音さんはなんで蛍はほたるだって言ったの?」
一拍。
何かを竹内蛍が一瞬戸惑っているような空白。
『藍も見ただろ。姉ちゃんは俺と同じくらい変なんだ。』
「竹内くん自覚あったんだ。」
『うっせー。』
あと姉ちゃんと一緒は嫌だから名字じゃなくて名前で呼べ、と竹内蛍は不機嫌そうな声で言った。
『両親も姉ちゃんも妖怪を信じてるんだ。名前には力があるから、迂闊に人に本名を教えないほうがいいって考えてる。』
「蛍に負けず劣らずだね。そーゆーの徹底する辺り。」
『心酔するものの価値が全然違うだろ。俺は宇宙という生命の神秘やまだ見ぬ世界に夢を見てる。姉ちゃんや俺の親は実在しない幻を信じてる。』
「宇宙は実在するって言っても、太陽はただのヘリウムのかたまりでしょ。」
『俺らの生活がそのヘリウムのかたまりで成り立ってるって考えると楽しいじゃん。』
「……確かに。」
おもしろいとは思うが、だからといって宇宙に心酔する竹内蛍の気持ちが分かったわけではない。


