「なに、あれ」
思わず少年の口をついて出た言葉。
黒い血のような液体を体からダバダバと流しながら、うごめく何か。
苦しんでいる。
少年は直感的にそう感じた。
動きはやけにゆっくりで、何かに動きを封じられているようにも見える。
少年は弓を取り構える。
「ググ、ググ……」
何かは低い声で呻き、少年を見上げた。
気付かれた。
冷たい目。
青白く、月の光以上に強い光をその目は放っていた。
目に何か紋様が浮かんでいる。
少年は汗ばむ手で矢を引きしぼる。
あれは、敵だ。
何故かと問われても答えられないが、何故かそんな気がした。
「ググッ!」
ひときわ大きな声を上げて、それは少年がいる木に突進してきた。
メリメリメリッと、根元から木が裂ける音がした。
葉がかしましく擦れ合う。
まずい、落ちる。
少年は慌てて木を蹴り飛ぶ。


