「弓月ってなんで時々おでこに指先当ててるの?」
右近にそう聞かれたのは彼女のお腹が少し大きくなった時だった。
その時彼女は親子丼をモグモグ食べていた。
親子丼は右近の好物だったのだ。
弓月はしばし右近の質問を考えた。
自分ではあまり意識していなかったが、額に指をつけていたのだろうか。
手のひらで顔を覆うように。
けれど接するのは指先だけ。
特に意味もなくやっていたようだ。
「あと、なんかたまに何回も瞬き繰り返すよね。あれ何の意味があるの?」
「いや、特にこれといった意味はない」
「そうなんだ」
モグモグと親子丼を頬張りながら右近は「ふーん」と言う。
「弓月ってけっこう変なことするよね。鼻歌はなんか遅いし、暇そうな時は小指ブニブニいじってるし」
あとはー、と弓月の行動を思い出す右近。
鼻歌、小指、額に指、瞬き。
あ、と思った瞬間、弓月は一瞬血の気がなくなった気がした。
サァッと手から力が抜ける。
気づいた瞬間、ぶわっとあらゆることが溢れ出てきたのだ。
お鈴、仁兵衛、クルシ、瑛子、恒世。
懐かしい名前が、去っていった顔が。
今でも鮮明に思い出される。
受け取るつもりなどなかった。
気付きもしなかった。


