「それで、あなたが持ってるその人間は?」
「あぁ、こやつか」
弓月は肩に担いだ人間を軽く揺する。
なんの反応も無いので気絶しているのだろう。
「竹内の当主だ。本物の」
「何でこんなとこに連れてきたのよ」
乙姫には全く弓月の考えが分からなかった。
ここは森の深淵だ。
九木の本拠地。
妖の溜まり場。
そしてこれから、九木は人間を滅ぼそうとしている。
竹内の当主を生贄に、他の人間達の命乞いでもするつもりか。
いや、弓月がそんな意味の無いことをするわけがない。
弓月だって知っているのだ。
九木が望んでいるのは、人間という種そのものの消滅だということぐらい。
そんな乙姫の心の内など知らず、弓月はあっけんからんと答えた。
「あぁ、これは時間稼ぎだ。他の準備が今しばらくかかりそうなのでな」
竹内家の当主の足がぶらりと揺れる。
乙姫は不思議とほっとした。
アテルイの一族に情がわいたのだと思っていたが、やはり彼は妖怪だ。
根本的に、人間に好意はない。
竹内家の人間が死んでもどうとも思わないのだろう。


