「あ」
あ、え、嘘。と、言葉だけが口を出る。
今までなんで気づかなかったのか。
普通に考えて、条件を満たす契約はそれしか無かった。
有明自身も言っていたのに。
『九木の力を抑えるくらいだから契約の返しは相当デカいはずだ』
『一つはアテルイの血を途絶えさせないこと』
『だけどそれだけじゃ不十分だ』
『九木なんていう妖怪の最高峰を抑えつけるための、もっと大きな、契約の元となる何か』
壱与だ。
壱与の、封印だ。
有明は振り返る。
しかし、弓月の姿はもう見えない。
天狗は死ぬ気だ。
自分たちごと九木を死の淵へ引きずり込むつもりだ。
壱与が目覚めれば、アテルイとの契約は切れる。
天狗を守る契約は無くなり、彼らは九木に殺されるだろう。
そして、その後壱与が九木を殺す。
天狗が描いているであろう予想を有明は考える。
それから、藍のことを考える。
手に持った桐の箱が重くなった気がした。
そうしてふと、弓月の言葉を思い出す。
『お焚き上げだ』
藍の物を燃やす理由。
あれはどういう意味だったのだろうか。
サワサワと、有明の頭上で木の葉が騒いだ。
どうにも、納得がいかなかった。
これでいいはずがないと、特に明確な理由もないのに、有明はそう思った。
そうして、有明は思い切って自分を引いていた天狗の手を振り払った。
そしてそのまま弓月の妖力を感じる方へ走り出す。
今、弓月を追わなければ。
不思議と、他の天狗たちは有明を止めようとはしなかった。


