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瀬戸内海沿岸地域の浸水被害が広がっているという情報が次から次へと入ってくる。
桜はベッドの横のイスに腰掛けたままじっとしていた。
ベッドにいる佳那子は何も言わずテレビを見つめている。
その横では紫月がモグモグと団子を食べている。
「理事長はどうするつもりだって?」
「さぁ。俺はまだ聞いてない。でもさっき地方の幹部の人たちと連絡取り合ってるのは聞いた」
佳那子は桜の返事を聞いて「そう」とだけ呟く。
手元の鏡を何度も撫でている。
「竜宮城まで動きましたか」
手に付いた団子のみたらしをぬぐいながら紫月はそうこぼす。
彼女の表情は平素とあまり変わらずにぼんやりとしている。
「藍さんとあの天狗の長の計画がうまくいってくれればいいのですが」
「理事長はそれに関しては悲観的だよ。壱与の自我はもう壊れてまともに力も使えないって思ってる」
いくら優れてるといっても所詮元の器は人間だ。
牛木という大妖怪の力を全て引き受けてしまってはもはや動くこともままならない。
千七百年の時で考える力ももうないだろう。
これは理事長とその他鬼道学園の重役の予想でしかないがら十分あり得ることだと桜は思う。
千秋もその可能性は考えていただろうが、やってみなくちゃ話は進まないと思って鬼道学園を辞めてまで行動にうつしたのだろう。
最悪の事態を考えて備える理事長。
打てる手は全て打とうと行動する千秋。
傍目には親子の仲違いにも見えるが、案外二人とも自分の立場や役目を分かって行動してるのではないか、と桜は後になって思えた。


