「そういうものなんだよ、妖怪は。調べてその正体が解明できるものじゃない」
「それはおかしいです」
「は?」
この会話でイライラしている様子の千秋。
彼がこんなにイラついているのは珍しいな、と思いながら藍は二人を見守った。
「調べて、考えて、実験して、探求し続ければ、どんなものにも何らかの答えがきっとあるはずです。アインシュタインは重力のせいで人が恋に落ちるのではない、と言いました。つまり、恋に理由はないと。けれど私は、何百年、何千年もかけて調べてゆけば、いずれは人が恋をする理由も証明できると思っています。全てのものには理由がある。例外はありません。勿論、妖怪の存在にも」
きっぱりと、竹内天音はそう言い切った。
そのあまりにも堂々とした姿勢は、話の内容よりも説得力があった。
それでも、藍は天音の話に全面同意する気にはなれなかったが。
多分、どんなに調べても彼女が妖怪の正体を掴める日は来ないだろうと思えたからだ。
「極端な人だね」
冷めたような千秋の声。
「もっと柔軟に考えなよ。人間に分かることもあれば分からないこともある。それでいいじゃん」
千秋がそう言うと同時に、車が止まった。
窓の外にはどっしりとした日本式の古いお屋敷。
いかにも年代物ですといったていだ。
ここが竹内家のようだ。
ガチャッと自動でドアが開く。
車から降りる時、藍はふと思った。
蛍と天音さんは、考えていることが正反対だな、と。


