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『妖怪をご存じですか?』
血の気のない唇からそんな言葉が放たれた。
午後五時半。
テレビではどの局も同じ事柄を流していた。
材料の仕込みをしていた藍もテレビを見ていた。
一人の女性がたくさんのマイクの前にいる映像。
生放送。
そこで、彼女の口から出てきたのは先ほどの言葉だった。
「……は?」
妖怪?
藍は卵を数えていた手を止める。
『妖怪、ですか?』
『はい。』
『天音さん。失礼ながら、わたしたちが聞きたいのは竹内家の今後の方針なのですが。』
テレビ局がこぞって放送している内容。
それは、日本一財力があると言われている竹内家ののことだ。
数時間ほど前、竹内家の当主とその妻が何者かに殺されたそうだ。
つまり、竹内蛍の両親が死んだ。
友達の親が死んだ。
近いことのようで近くないな、と藍はテレビを見ながら思った。


