「みんな無事か?」
声の聞こえた方を振り向くと、木々が燃える仄かな明かりの元に理事長が立っていた。
彼の元にわらわらと人が集まってくる。
頭から血を流している人、着物が大きく裂けてしまっている人。
皆どこかしらに怪我をしている中、理事長だけは無傷だった。
あの一瞬で結界をはったのか。
さすがだ。
そう思い動こうとしたところで、桜は自分の右足を挫いてしまっていることに気付いた。
「動ける者は怪我人を近くの寺または神社に運べ!」
理事長の指示が飛び、ガヤガヤと人が動き出す。
あちこちでも地面を覆う木々に火をつけ周囲が明るくなっていく。
そんな中、険のある理事長の声がとぶ。
「桜くん、千秋、来なさい」
ヒヤリとした。
思わず顔を上げ見つめた理事長の顔は険しかった。
怖気づく桜の横をパキッと木を踏みながら誰かが通る。
緑の着物。
千秋だった。
「父さんには僕が説明する。桜はその足早く冷やした方がいいよ」
いつも通りの千秋の声。
その身に乱れた様子は見られない。
彼もまた無傷のようだ。
さすが伊勢家。
場違いにも桜はポカンとしてしまう。


