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嵐は一瞬だった。
鼓膜を突き破るかのような咆哮。
目を開けていられないほどの暴風。
なす術もなく身体が吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
背中を激しく打ち付けられ桜は一瞬息が詰まる。
ビュウウウッと風の音。
背中にゴツゴツとした木の感触。
どっちが上だ。
グラグラする頭でうすく目を開ける。
ぼんやりと暗い。
あぁ、そうか今は夜だった。
桜は喉に力を入れなんとか掠れた声で友人の名前を呼ぶ。
「千秋」
数秒後。
カサリ、とどこからか音がした。
だが何も見えない。
街灯も車のライトも店の明かりも、全てが消えた今、桜の周りは真っ暗で何も見えなかった。
九木の力が全てを壊したのだろう。
本当に、一瞬で、全てを。
圧倒的な九木の力を前に、何もできなかった。
受け身をとることもできず、吹っ飛ばされて終わった。
桜は虚しい気持ちになる。
段々と意識がハッキリしてきて、自分が仰向けになっていることも分かった。
目も正常に戻っているのか、真っ暗な夜空とそこにポツポツと浮かぶ星々が見える。
星空なんて久しぶりに見たな。
場違いにも桜がそう思った時。
パチン、と何かが爆ぜる音がした。
パチパチと続く音。
何かを燃やしている。
力を入れて桜は起き上がる。


