「なぁ」と声をかけられ竹内蛍へ顔を向ける。
「藍さ、坂口安吾のピエロ伝道者読みたいんだったよな?」
「え、うん。」
「本も電子辞書もないけどさ、朗読してやろうか?」
「朗読?」
「暗唱っていうのか?」
朗読、暗唱。
蛍の言葉を口の中で呟く。
つまり、声で教えてやろうか、ということなのか。
困惑したまま藍は笑う。
「何、内容を教えてくれるってこと?」
「それでもいいけど、全文言ってもいいよ」
「……全文」
「うん」
全文。
何を言ってるんだろう、蛍は。
「えっ、蛍ってピエロ伝道者の全文記憶してるの?」
「おう。つーか俺は、一回読んだ文章だったら何でも忘れないからな」
「………え!?」
思わず藍は身を乗り出す。
一回読んだら忘れないって。
藍と有明が二人して呆然としているのに対して、蛍は不思議そうに目を瞬かせている。


