不滅の妖怪を御存じ?











阿知は弓月の親友だった。

だった、と過去形の理由は、阿知と弓月が一緒に過ごせた時間は百年しかなかったからだ。
弓月の十日後に生まれた阿知。

彼らが生まれた頃から既に九木の暴虐な統治は始まっていた。
天狗以外の妖怪はほとんど九木に服従していた千三百年前。

九木に必死に抵抗しながら弓月と阿知は生まれてからの百年を過ごした。


「弓月!」


眼下に広がる崖。
黒々とした岩のてっぺんに弓月は立っていた。
阿知の声に反応して顔を上げる。

バサリと音をたてて阿知は弓月の近くに降り立つ。


「なんじゃ」

じっと見つめてくる琥珀色の瞳。
阿知は一瞬言葉に詰まる。

だが、すぐに眉をしかめる。


「阿保か!」

「そうだな。」


あっさりと認められ、阿知は何と言えばいいのか分からなくなる。

ふっと、弓月の目が外される。
天狗の寿命は約二千年だ。
弓月と阿知の二人に残された時間は約七百年。


「戦う前から諦めるのか」

「あぁ」


やけに力強い弓月の声。

阿知は二百年前の弓月のことを思い出す。
まだ百歳の若造。
それでも弓月は強かった。
妖力は他の天狗たちの群を抜いていたし、いつも冷静だった。

千歳をこえた天狗たちが何人も弓月に勝負を挑んでいた。
弓月はそのほとんどに勝利して、偶に負けた。

阿知は一つ残らずその戦いを見ていて、弓月の強さに「すごいすごい」とただ騒いでいた。

嬉しかった。
誇らしかったのだ。
弓月であれば九木のこともなんとかできると、阿知は弓月が勝つ度に言っていたように思う。


「九木に勝てないのでは、意味などないのだ。」


腫れた頬を冷やしながら弓月がポツリとそう言ったのを覚えている。