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千二百年振りに弓月が帰ってきた。
その知らせを聞き、天狗達は驚き、そして喜んだ。
族長が帰ってきた。
呑めや歌えやの大騒ぎでしばらくは天気は大荒れになるかと思われた。
しかし。
天狗の族長、弓月は渋い顔をしてこう言った。
「我らは今、苦境に立たされておる。」
その一言でお祭り騒ぎだった天狗たちは静まりかえる。
風が止んだ。
天狗たちの千二百年の平和は弓月がアテルイの子孫を守ることで成り立っていた。
だが、弓月がいない間にその子孫が殺されてしまえば、アテルイの呪いは解ける。
一瞬で九木にやられてしまうだろう。
「わたくしが、危険を冒してまで空に戻ってきたのは、ヌシらに選択してほしいからじゃ。」
弓月の声は大きいわけでもないのに、遠くにいる天狗にまで伝わった。
天狗たちは皆姿勢を正す。
そうしてじっと弓月の話に耳を澄ませた。
弓月の話は手短に終わる。
だが、話した内容は選択というよりも、提案だった。
もっと言うなら、族長命令。
言葉の表面では選択肢を与えているように見えるが、天狗たちには選ぶ権利など全くなかった。


