「それより藍、お前途中で何か取らなかったか?」
「あぁ、佳那子が何かくれた。」
藍は手に持っている紙の束を掲げた。
強く握りしめたせいでしわくちゃになっている。
それでも「藍へ」と書かれた文字は読める。
弓月の字だ。
藍がそう思った時。
後ろから呑気な声が聞こえた。
「すげー。夏の大三角形が見える。」
有明と顔を見合わせる。
数秒何も言えなかった。
後ろに顔を向ければ、蛍が嬉しそうに夜空を見上げている。
藍は下に視線をおろす。
砂浜。
砂以外の物も混ざっているので肌触りはけっこう痛い。
すぅっと息を吸い込む。
そして、ようやく声を発する。
「……何で蛍がここにいるの?」
蛍いわく、藍が突然走り出したので自分も走らなければいけないのかと思ったらしい。
何も言わなかった藍も悪いが、まさか付いてくるとは。
「人混みに流されやすいんだよなー、俺」と言って笑う蛍を、藍は何ともいえない気持ちで見ていた。


