⌘
「海だ!海へ走れ!」
有明の声が聞こえた瞬間、藍はダンを抱え走り出していた。
海。
後ろでゴォッと九木の気配が大きくなったのを感じた。
叫び声。
佳那子が何か差し出してきたものをひったくるように取り、無我夢中で走った。
蠢めく木々を飛び越え。
暗い森を有明の後を必死で走る。
ゼエゼエと乱れる呼吸。
一瞬だったのか何分も経ったのか。
ダンの重さにそろそろ腕が耐えられなくなった時。
鬱蒼とした林の中から、開けた砂浜に出た。
転がるように砂浜に倒れこむ。
ゼエゼエと、しばらくは荒い息遣いしかその場では聞こえなかった。
ハハッと有明が乾いた笑みを浮かべた。
「嘘みたいだ。逃げれたぜ。」
「佳那子達は大丈夫かな。」
「分かんねぇ。九木の妖力はもう感じないけど。」
もしかしたら一瞬でやられたかも。
藍は口をつぐむ。
ぶんぶんと頭を振ると、頭に溜まった熱が逃げていった。
気持ちいい。


