「それで俺この前気付いたんですけど、俺と藍の名前っておもしろいんですよー。」
「どこが?」
竹内蛍は九木の無反応も気にせず自慢げに話しかける。
「アイとケイってアルファベットに出来る!IとK!」
「本当だ。」
「だろ?外国のスパイ映画のコードネームみたいだよな。IとK。」
「確かに。」
最高にどうでもいい話が続く。
その時、ビュウッと風が吹いた。
千秋がニヤリと笑う。
吹いたのは、普通の風ではなかった。
北風、東風とは種類が違う。
上から下へ、圧し潰すような風だった。
ピクリと、九木の目が動く。
ようやく九木も藍たちの思惑に気付いたのだろう。
だがもう遅い。
九木が変化を解いた時には有田藍は走り出し、千秋はすでに結界を作り出していた。
「藍ちゃん!」
佳那子の声と共にギャォォオと九木が吠え、地面が大きく揺れた。
木々がのたうち回り、足に大枝が叩きつけられ、桜は大きくすっころんだ。
九木の妖力の膨張は凄まじく、洗濯機の中にいるように身体ごと振り回される。
佳那子は手紙を渡せただろうか。
桜はそう思いながら頭を守って嵐が過ぎ去るまで耐えようとした。


