不滅の妖怪を御存じ?









何を言っているんだあいつは。

この場にいる全員の心が一つになったような気がした。
先程までのピリピリした緊張感が嘘のようだ。
皆ポカンとして呆気にとられている。
もしくはキョトン。

桜は呆然として有田藍を見る。
九木先輩って、お前。
無性に疲れを感じた。
すぐ近くに九木という最大の敵がいるというのに、変な脱力感におそわれる。

さっきからアイサイトだとか先輩だとか。
千秋も藍もそこでボケはいらねえんだよ。

桜がため息をつきそうになった時。

どこからかキョトンとした声が聞こえた。


「え、あの人藍の先輩なの?」


何の緊張感もなく竹内蛍がそう尋ねた。
頼むからしっかりしてくれ。
もうボケはいらないって。

桜はこの奇妙な状況に頭を抱えたくなった。


「う、うん、そう。先輩なの。」

「へー。」


まさかの有田藍が話に乗ったことで奇妙な状況に拍車がかかる。
周囲は完全に置いてけぼりだ。
何も分かっていない竹内蛍だけ好奇心旺盛に藍と九木を見ている。


「え、でも九木さん三十歳くらいに見えるんだけど。何の先輩?」

「………地域のボランティア活動の先輩。」

「藍そんなのやってたんだ。」

「うん。環境保全を考える会ってやつ………。」


しどろもどろに答える藍と、へー!へー!とさも楽しそうに話しかける竹内蛍。

ここですごいのは話にまざっているはずの九木さえも置いてけぼりになっているということだ。
天狗の姿をした九木は、怒ればいいのか無視すればいいのか分からない様子でそこに佇んでいる。


「あ、俺、藍の友達の竹内蛍っていいます。好きな惑星は金星で、好きな衛星はタイタンです。」


にこやかに九木に話しかける竹内蛍。
竹内天音も相当だと思っていたが、竹内蛍も相当変な奴だったみたいだ。
なるほど。
竹内蛍が宇宙が好きなことは分かった。
で、それで?


「多分、弓月を待ってるんだ。」

「天狗を?」

「そう。天狗が来たら一斉に九木に襲いかかろう。何としてでも彼女を逃がす。」

「牛木の封印を解くことはいつ話すんだ?」

「佳那子に手紙の渡し役を頼んだ。」


なるほど。
佳那子に丸投げしたわけだ。

千秋は札を手に持ち準備を始める。


「で、本当に天狗は来るのか?」

「運が良ければね。」


桜は黙って前を向く。
竹内蛍が藍と九木に何かベラベラ話している。
今はまだ竹内蛍がああして話しているのでなんとか持っているが、彼の話が尽きたら。
いや、九木であれば尽きる前に動くかもしれない。

桜はいつでも動けるように腰に差した刀に手をかける。
竹内蛍の呑気な声が聞こえてきた。