「何でもいいから時間を稼げ。」
どうしようかと考えていたら、隣にいた有明にそう言われた。
「ここには東北の妖怪と九木がいるんだ。他の妖怪たちが好奇心で見に来るはずだ。」
天狗たちが来るまで時間を稼げ。
暗にそう言われてることに気付く。
藍が生きている限り、九木は天狗に攻撃できない。
つまり、現時点で九木に対抗できるのは天狗たちだけなのだ。
そうとわかったら、何がなんでも時間を伸ばそう。
藍はくっと顔を上げる。
「………。」
凍えるような九木の目と目が合う。
ヒュウッと寒気がした。
腰が引け、藍は怖気づきそうになる。
いや、引いたらダメだ。
時間、時間を稼がなくちゃ。
そうだ、話しかけよう。
名前を呼んで、何でもいいから話して。
九木、は馴れ馴れしい。
九木様、恭しすぎだ。
九木さん、妖怪にさん付けでいいのか?
「………く、」
ぐるぐると回る思考。
極度の恐怖と焦りでパニック状態だった。
早く、早く。
気持ちばかりが焦る。
そしてついに、何がなんだか分からないまま呂律が回らない舌で藍はこう言っていた。
「九木先輩!」
何を言っているんだ私は。
言ってから数秒経って藍は思った。
だが時すでに遅し。
さすがの九木も突然の先輩呼びにポカンとしていた。


