不滅の妖怪を御存じ?









猛スピードで九木へ向かう車。

ボキボキボキッと草木を巻き込んでタイヤが回転する。
ギュンギュンとモーター音。
スピードを緩める気配はない。


「行け!」


石上桜のその声を聞いてようやく藍は分かった。
あの車は九木を轢く気だ。

妖怪は人に見えないだけで存在していないわけではない。
轢かれればきっと死ぬのだろう。

バッと藍は車の行く先を見つめる。
もう瞬きすれば九木にぶつかる。

その瞬間。
キキィッと耳障りな音。
バガッと何かが壊れる音。
焦げ臭い匂い。

車は止まっていた。
九木にぶつかる前に。

九木に、ぶつかる前に。

え、何だったの、という空気が流れる。
その中でウィーンと運転席の窓が開く。
そこから顔を出したのは伊勢千秋。
彼は藍と桜たちの方へ顔を向けてこう言い放った。


「ごめん。この車、アイサイト搭載されてた。」


たっぷり数秒。
間が空いてからようやく状況を把握した石上桜の「馬鹿か!」という叫び声が響いた。

藍の隣でも有明とダンがポカンとしている。


「おいアイサイトって何だよ。」

「車の前に人とか物があったらそれに反応してぶつからないように自動で止まる機能。」

「まじか。人間はすげーもん作るんだな。」

「でも今はいらなかったみたい。」

「だろうな。この状況はまずいぞ。」


ゆらりと、弓月の姿をした九木が動く。
九木が弓月に化けているのが悪かった、と有明は呟く。
狐は化ければ人間にも姿が見えるようになる。

つまり、アイサイトの物を捉えるカメラにも映る。

ゆらゆらと九木が近付いてくる。
赤い瞳。
ダンを見て、藍を見る。

車で突っ込んできた千秋たちには目もくれない。
鬼道学園など眼中にない、というように九木は藍まで三メートルの距離まで歩いてきた。

だが、ダンを警戒してるのかそれ以上近付いてこない。
それでも、藍を殺す気だというのはその目から伝わってきた。