淡い水色の着物を着た女性が嬉しそうに蛍に話しかけている。
彼女はどうやら竹内家の女中のようだ。
蛍がいなくなってしまったので必死に探していたらしい。


「天音さんが心配しておられます。」

「うわ。やだな絶対怒られるじゃん。」


ダンと手を繋いでいる藍はぼんやりと二人の会話を聞いていた。
足元の木々は未だゆるゆると動いている。


「ヘリを用意しておりますので帰りましょう。」

「え。なんでヘリ?車は?」

「この木々が道路を塞いでしまい車が通れないのです。」


女中の言葉に有明と藍は顔を見合わせた。

九木の力により交通網が動かなくなっている。
予想以上に被害は深刻らしい。

今の自分に何が出来るのか。
何も分かっていないような顔をしているダンの手をぎゅっと握り藍は考えた。

その時、不意にメリメリ、ボキボキと木々が折れる音が聞こえた。
木々を踏みつけて無理やり進むような音。

振り返れば、案の定大きな車が地を這う木々を踏み潰して藍のいる方へやって来ていた。


「車傷ついちゃってるね。」

「この状況じゃしょうがねえんじゃね。」

「あの車に乗ってるの誰?」

「さぁ?」


藍と有明がそんな話をしている最中にも車はあらゆる方向から次々とやって来た。
そうして一番大きな車のドアが開く。
中から出てきたのは、理事長だった。
伊勢千秋の父。

藍は思わず背筋を伸ばす。