「その東北の妖怪に直接聞きゃいーだろ。」
そう言って紙と筆ペンを渡してきた。
藍以外誰も男の子に近づこうとしない。
乙姫様たちの視線をビシビシと感じながら藍は男の子に紙と筆ペンを渡し尋ねる。
「どうして竜宮城に来たの?」
男の子は決して上手いとは言えない字で答えを書く。
『ぬしさまに会うため』
「ぬしさま?」
「あるじ、主人ってことだろ。」
「へぇ。」
相槌を打った後に顔を上げると有明が含みを持った目でこちらを見ていた。
「何?」
「お前じゃねーのかよ。」
「何が。」
「そいつの主人。」
「はぁ?」
ないない、と笑い飛ばそうとして藍の動きが止まる。
乙姫様たちが奇妙な顔をして藍を見つめている。
視線を下ろす。
男の子が藍を指差し紙を持っていた。
さっき書いたのであろうその紙に書かれていた言葉は。
『この人が「だんしといれ」と名まえつけてくれた。だからぼくのぬしさま』
ぬしさま、あるじ、主人。
名前をつけたら主人だと認識されるのかそうかそうか。
え、で、何?
この子の主人は、私?
そこまで頭が回った瞬間、藍は身体中から冷や汗が流れ出た気がした。


