不滅の妖怪を御存じ?





人間は変化が早い、とも乙姫は思う。
有田藍はまだ二十年も生きてないはずなのに、見た目は有明よりも年上のようだった。
変化が早いからこそ寿命も短いのだろう。

ふと、乙姫は十数年前、藍が生まれた頃のことを思い出した。
もう何十回目かも分からない弓月の訪問。




「有田右近。57人目じゃ。」


そう言って一枚の写真を見せてきた。
黒い髪をふわりとゆるく巻いた少女が写っている。

彼女は何歳まで生きたのだろうかと思いながら乙姫は何も言わなかった。


「26歳まで生きた。子供は女の子。藍という名。」


そう言いながら弓月は天狗が描かれた蒔絵の箱に写真をしまい込む。
その表情は至って普通でら特に何の感情も持ち合わせていないようだった。


「右近は本が好きであった。いや、文字が好きと言った方が的を射ておるな。新聞でもチラシでも、暇があれば片っ端から読んでおった。」


乙姫の反応も気にせずベラベラと死んだ女性について話し続ける。

これは弓月にとって一種の儀式なのだ。
写真をしまい込み、故人について話し、そうしてようやく、忘れるというか、思い出さないようにするというか。
記憶を捨てるように話続ける弓月の背中を乙姫は見つめた。