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キラキラと真珠が一面に飾り付けられた自室で乙姫は何とはなしに身繕いをしていた。
珊瑚に掛けられた色とりどりの衣服。
淡いピンクの半透明の布をふわりと羽織る。
唇をこの色に合わせようと化粧箱と鏡を取り出す。
桜色の口紅を人差し指と中指に付け軽く唇に塗っていく。
『美しくなければいけない。』
乙姫は先程自分が言った言葉を思い出した。
美しいこと、竜宮城ではそれが絶対条件だ。
美しくないならば必要ない。
例えそれが、血を分けた自分の息子だとしても。
私は間違っていない。
鏡に映る桜色の唇をした美しい顔を見ながら乙姫はそう思った。
『愛してあげてください。』
ふと思い出した有田藍の言葉。
鏡の中の女がふっと笑った。
自分らしくない笑い方だと思った。
上品さも艶やかさもない。
疲れた女の笑い。
愛してあげるだなんて、人間だから言えるのだろう。
妖怪とは価値観が全然違う。
妖怪である弓月が育てたのに、彼女の考え方は人間そのものだ。


