「代わりとして昆虫を食べる。ならば、昆虫がいなくなったら何を食べるのだろう。」
昆虫がいなくなったら。
代わりとなるのは、木とか?
作文を書くのがめんどくさくなり藍は弓月の話に耳を傾け考え始めた。
確かに、昆虫がいなくなったら食べられるものなんてなさそうだなぁ。
それは困るなぁ、と。
暑さでぼんやりとした思考で大して真剣には考えていなかった。
そこに、冷たい水のように弓月がボソリと呟く。
「わたくしは、いつか人間が食用の人間を作るのではないかと恐れている。それしか道が残されていない状況になってしまったならば、人間はクローンでも何でも使ってきっとそうするだろうよ。」
夏だったはずなのに、弓月のその言葉を聞いたときは、何の温度もなくなった気がした。
代用品という言葉が頭の中をグルグルと回る。
人間が代わりになる日が来るかもしれない。
べたりと喉に張り付いた気持ち悪さ。
弓月は、人間が嫌いだったのか。
そうかもしれない。
ふっと藍は顔を上げる。
鉄格子の外の様子を窺っている有明の姿が見えた。
その茶色いフワフワの髪に声をかける。


