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弓月について知りたい。
ならば、人に聞く前に自分の記憶を探ってみよう、と藍は思った。
十六年間も一緒にいたのだから大抵の者よりも藍の方が弓月について知っているはずだ。
まぁ、人間である藍に見せる顔と妖怪に見せる顔の違いはあるのだろうけど。
とにかく、今持っている弓月の情報を整理しておこう。
藍は自分の爪を触りながら思い出す。
やけに印象に残っている弓月との会話を。
「人間はいつか、虫を食べるようになるそうじゃ。」
あれは確か、夏の日だった。
藍が中学二年生で。
「虫?」
弓月は藍の返答など聞いていないようにパタパタと団扇を仰いでいた。
手にしたシャーペンが汗でじっとり湿っていた。
あの湿った感じが嫌だった。
今でも嫌いだ。
多分一生好きにはなれないだろう。


