トン、と父は湯のみを置く。
そして、ゆるやかに天音の方へ振り返った。
天音と同じ青みがかった目が見つめてくる。
けれど、その口から言葉が発せられる様子はない。
「お父さんが私に疑いの目を向けるのも分かります。私は、感情を表に出すのが苦手です。子供らしくないということも自覚しています。」
天音は父の手を見ながら早口にどんどん話した。
膝の上にある父の手は大きく、しわが目立った。
「そして、余計なことにまで気付いてしまうからお父さんは警戒なさったのでしょう。」
「……知っているのか。」
ようやく発せられた父の言葉。
父の手を見つめたまま天音はコクリと頷いた。
「牛鬼の文献を、読みました。」
天音が抑揚のない声でそう言えば、父はため息をついて片手で目を覆った。
「あの部屋には入ってはいけないと言ったじゃないか。」
「申し訳ありません。」
「そこはごめんなさいだ。」
「ごめんなさい。」
カラカラ、カラカラと。
また落ち葉が転がってゆく。


