竹内天音は暗く渦巻く空を見上げながら先程よりも一層声を張り上げた。
「お前はここには入れない!」
父の秘密が知りたくて。
どうしても突き止めたくて。
いけないとは分かっていながらも、出入り禁止にされていた部屋に入った。
そこで知った、1700年続く竹内家の役割。
轟々と、風が大きな音をたてる。
まるで天音の言うことに反抗しているかのように。
「ここは牛木の結界で守られている!何があってもお前は入って来られない!」
ゴウゴウと荒々しかった風が、段々と穏やかになってゆく。
九木が去ったのだろう。
どんな妖怪でも一歩も入れない牛木の結界により、竹内家は妖怪からの災厄という点だけで見れば世界一安全だ。
冷たい風が吹き抜ける。
天音は目を伏せる。
そうして、幼い頃父と交わした会話を思い出した。
「お父さんは、蛍を当主にするおつもりですか?」
小学生になって、父の自分を見る目に猜疑と不安が含まれていることには気付いていた。
見張るように、さりげなく向けられる視線。
天音はそれをどうしようともしなかった。
どうにかできるものではないと悟っていたから。
それに、勉強さえちゃんとやっていれば父は何も言わなかった。
ただ、不安そうな顔で天音を見るだけ。


