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空が暗い。
ザワザワと、不穏な音をたてて木々の間を通り抜けていく風が竹内天音の頬を撫でる。
竹内家の当主は縁側に凛とした姿で座っていた。
三つ編みの髪がさらりと揺れる。
眼鏡の奥の瞳は空だけを見つめている。
「天音さん。」
女中の一人が彼女に後ろから声をかける。
「嵐が来そうです。早く中にお入りになってください。」
「大丈夫。」
振り返りもせずそう言えば、後ろから女中の心配そうな視線を感じた。
天音が幼い頃からずっと竹内家にいた女中だ。
そのせいか彼女は今でも天音を子供のように思い心配してしまうのだろう。
「蛍を、呼んできてください。」
「ここに、ですか?」
「ええ。」
スッと衣擦れの音と共に女中が下がる。
ほぅ、と天音は一息つく。
途端に、ドシン、と。
地震ともとれるような揺れが起こった。
空が一段と暗くなる。
天音は鋭い眼光で空を睨みつけた。
「九木!」
昔から観察力に長け、感が良かった。
父が何かを隠していることには早くから気付いていた。
お父さんは何を隠しているのか。
幼い頃の純粋な好奇心だった。
ありとあらゆる手を使い調べた。
それでも、手がかり一つ見つからない。


