「世界には国が190カ国以上あるらしい。」
「だから何だよ。」
「それだけあれば、有明が生きたいと思える場所もきっとある。竜宮城だけが世界じゃない。」
だから、出よう。
口にしなかった言葉は有明に伝わっただろうか。
藍はじっと息をひそめた。
今回のことで、本当の家族と一緒にいるからといって必ずしも子供が幸せであるわけではないということを知った。
そしてまた、逆も然りであるはずだ。
弓月の本心は分からない。
が、弓月と過ごした藍の日々は決して不幸せではなかった。
屋根の上で竹竿を振り続ける弓月。
床をモップでこすり続ける藍。
いつも通りの、なんてことない日常。
そんな日々が、なんとなく続けばいいと思っていた。
続くと信じて疑わなかった昔の自分。
浅はかだったけれど、あの頃に戻りたいとふいに思った。


