「あなたに迷惑をかけたことは謝るわ。どこで育て方を間違えたのかしら。こんなこと言うのもあれだけれど、あの子、失敗作ね。」
藍ははっとして乙姫の目を見る。
二人の数十m先には有明がいるのを分かっていて、こんなことを言うのだろうか。
ぐっと唇を噛む。
「でもちゃんと生活費は出してあげるわよ。一生遊んで暮らせるぐらいのね。これ以上、何が必要だというの?十分すぎるくらいじゃない?」
たおやかにそう言い切った乙姫。
この人にとって有明は、五百人もいるうちの出来損ないの一人でしかないのだろう。
けれども有明にとってはただ一人の母親だ。
「……お金じゃないと思います。」
やっとのことでそう言えた。
乙姫は優雅に首をかしげる。


