「ねぇ。」


ボソリと。
天狗には聞こえないくらいの声で千秋が三人に話しかける。

佳那子と桜は目だけを千秋に向けた。
紫月は鏡の中の天狗に目を向けたまま。


「勘でしかないんだけど、彼、有田藍が言ってた弓月って天狗じゃないかな。」

「え。」


佳那子が頓狂な声を上げる。

それに続いて鏡をじっと見つめていた紫月も口を挟む。


「左手に何か、紙の束を持っているようです。」


バッと急いで桜も鏡を覗き込む。
確かに、目の前に佇む天狗は左手に何か紙の束を持っていた。

きっちりと折りたたまれている。
あれは何だろう。
手紙?


「私の見間違いでなければ。」


淡々と。

いつもと変わらない口調で。
自分の先祖の記録から見つけた事実を報告するように。
紫月の平坦な声が聞こえる。


「あの紙に『藍へ』と書いてあるように見えるのですが。」


ズシン、と。
かすかに大地が揺れた気がした。