「追い払えるか?」

「無理でしょ。」


嘘でもいいから「出来る」と言って欲しかった。
動じない千秋に桜は口を引きつらせる。

「負けるわけない」とさっき言ったのは本当にこの男なのか疑いたくなる。


「こんだけの妖力、普通の天狗じゃないからね。」

「天狗の長とか?」

「だろうね。」


佳那子と千秋が会話しているの間にもヒタヒタと近づいてくる。

姿は見えないが、暗闇の先に感じる妖力は次第に大きくなっていく。
じわりと、桜は背中に汗をかく。


「どうしますか。」


いつもと変わらぬ口調で紫月が千秋に訊ねる。

千秋はふいと天狗がやって来るであろう暗闇に目を向ける。
じとりとした暗闇。
チラリと白い布が見えた。

ふーっと風が流れていく。

そうして、黒い翼が見え。
鼻の高い男がスッと出てきた。
白い着物。

勿論、その姿は佳那子が持つ鏡に映っているわけで、肉眼では天狗の姿は見えない。

天狗はキリリとした顔をしていた。
じっと桜たちの方を見つめている。
沈黙が続く。