「九木様は、おめえら天狗以外の妖怪に命令を出した。」
ぶつぶつと、聞き取りにくい河童の声。
弓月は顔を上げた。
九木は、弓月とアテルイの契約にどのような対抗手段をとってくるのだろう。
「わしら河童が五人は入れるほどの風呂桶いっぱいに妖力を溜めろ、と仰せられた。」
「……千年以上はかかるぞ、それは。」
なるほど、と弓月は思う。
妖力を大量に吸収して、契約を力ずくで取り壊す気か。
考えている間にも、河童はどんどん話していく。
「この前、わしらの河童三人、猫又は二匹、九木様に殺された。あの日は機嫌が悪かった。」
河童の顔はピクリとも変わらなかった。
けれど弓月には、九木に仲間を殺された河童の悔しさがよく分かった。
悲しくないわけがないのだ。
仲間を失って。
けれど自分たちと九木との間の妖力の差を分かっているから楯突くことも出来ずにいる。
うじうじと、いつまでもその場で。


