「さて、これで一つ分かった。」
ザリ、と土の上の木々を踏みしめ、弓月はそう口にする。
「九木、お主はもう我ら天狗一族に一切攻撃は出来ん。しかし、我ら天狗がお主に攻撃することは可能だ。」
どちらが有利か。
言われなくても分かっていた。
九木は弓月の高い鼻と黒い目を、じっと見つめた。
「もし、お主がアテルイの子孫を殺そうと謀るならば、こちらも全力で応戦する。」
じっと見つめ返してくる弓月。
九木は憎々しげに睨み返すと、フッと消えた。
あの日、弓月は九木を最高に怒らせた。
そんなことは重々承知だ。
天狗は戦いを好まない。
九木と何のいざこざもない方が天狗にとって都合がいいのだ。
だからこそ、天狗たちは未だに森に帰らず空に住んでいる。
今森に戻ったら確実に九木の機嫌を損ねるだろうから。


