「そういえば、河童が弓月んとこに乗り込んでいったっけえ。」
ぼんやりとそう呟いた入道に、他の妖怪たちはあちゃー、という顔をする。
「河童は短気だからいけねえ。」
「今頃殴りかかってるんじゃねえべか。」
「倍返しされてそうだなあ。」
ケラケラと声をあげる妖怪たち。
小鳥の鳴き声がのんきに聞こえてきた。
笑い声が収まると、のっぺらぼうがからりとした声で「あのさぁ、」と話を切り出した。
「九木様が新しい命令を出しなすったらしいぞお。」
「なんぞや。」
「我は知らぬぞ。」
再びざわつく妖怪。
小鳥がチチチ、と鳴いて飛び去ってゆく。
森の奥へ、どこまでも遠くへ。
同時に。
小鳥が飛び去った森の奥に、鬱蒼とした雰囲気の場所がある。
元、天狗の住処だ。
天狗が九木に追い出されてからは、九木の領地となっている。
そこに、天狗の族長である弓月と太った河童が向かい合って立っていた。


