「あなたの生活は保障しますよ。食事も、住む場所も。」
それで話は終わったのか、乙姫様は軽く顎を引く。
有明は何も言い返さなかった。
いつもはふくらんで見える茶色いふわふわの髪も、今日はなんだか萎んでいるようだった。
どろりと、重たい沈黙がたちこめる。
「……それで、いつまで隠れているつもりかしら。」
突然。
ヒヤリとしたその言葉が降ってきた。
藍は目を見開く。
そんな、まさか。
けれども声の主は間違いなく乙姫様だったように思えて。
岩の隙間からそろりと覗く。
乙姫様は相変わらず有明と向かい合っている。
茫然自失とした有明の姿も見えた。
もしかして、聞き間違いなのか。
乙姫様はこちらを見ていない。
なんだ、よかった。
藍がほっと胸をなでおろした途端。
「出てきなさい、有田藍。」
先程よりも、さらに重く、重く。
死刑宣告のような乙姫の言葉に藍は貫かれた。


