「有明には私から直接話します。あなたたちは仕事に戻りなさい。」
シャラシャラと、乙姫様が動いているのか衣擦れの音。
藍はそっと顔を出してみる。
乙姫様の言葉に有明の兄と姉は不満そうな顔をしていた。
それでも乙姫様には何も反抗出来ないのだろう。
恭しくお辞儀をして静かに去って行った。
二人が完全にいなくなったのを見てから、乙姫は雲のように髪をふわりと揺らし有明に向き合った。
「有明。あなたを竜宮城から追放します。」
落ち着いた声で、優しく語りかけるように乙姫はそう言った。
「それが嫌なら、永遠にこの檻の中で大人しくしていなさい。」
鉄格子の向こうで乙姫を見つめている有明。
彼は眉一つ動かさなかった。
けれど、その茶色い目には諦めとも悲しみともつかない色が浮かんでいる。
藍はふいに、胸がキュッとしまるような気になる。


