その時ふと、千秋はあることに気付いた。
有田藍には、山より大きい怪物が見えているはずだ。
妖怪についてある程度知識がある者ならまだしも、つい最近妖怪を知ったばかりの者がそんな巨人を見たら、普通叫ぶのではないか。
叫ぶとまではいかなくても、戸惑いの声くらいはあげるだろう。
だが、先ほどからそんな声は聞こえない。
伊勢千秋は無言で後ろを振り返る。
四人の生徒が目をパチクリさせて千秋の方を見ていた。
六人一班。
千秋の後ろには四人。
明らかに、一人足りなかった。
「……あのクソ女。」
成績優秀品行方正な伊勢千秋の口から出た汚い言葉に、四人の生徒はただ目を見開いて驚いていた。


