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サワサワと揺れる木々。
青々とした深緑の間を風が通り過ぎてゆく。
つややかな伊勢千秋の髪もそれによりふわりと浮く。
「……この妖力、ダイダラボッチか。」
ポツリと呟かれた伊勢千秋の言葉に、他の生徒の顔に安堵が浮かぶ。
ダイダラボッチ。
巨人伝説の一つ。
富士山を一夜で作るなどという巨大さを持つが、気性は穏やかなことで知られる。
姿は見えないが妖力は確かに感じるのでそのどでかい巨人は今自分たちの前にいるのだろう。
「一応聞いておくけど、君たち今までの道程でその辺にゴミ落としたりなんかしてないよね。」
振り向きもせずそう確認してくる千秋。
「してません。」と四人の生徒の声がかぶった。
「そう。じゃあ大丈夫だろうね。山を汚すことさえしなければダイダラボッチは何もしてこないから。」
妖力を感じる方向を見つめたまま千秋はそう言う。
後ろでも気が緩んだのか四人の生徒が言葉を交わし始める。


