今まで見たことも聞いたこともない場所、状況に藍は困惑して忙しなく首を動かす。
「え、本当にここどこ?」
問うてみても誰もいないのだから答えはない。
藍は布団を抜け出し、部屋のあちこちを観察する。
塵一つないきれいな部屋だ。
掃除が行き届いているのだろう。
段々藍は不安が薄れ好奇心が湧き出てきた。
そうして一番気になっていた、部屋の隅に置かれた荘厳な箱に手を伸ばしてみる。
藍が目を覚ました時から部屋にあったそれは、漆器のようだ。
黒い下地に金で木に腰掛ける天狗が描かれている。
蒔絵とかいうやつだ、と藍は思いぱかりと蓋を開けた。
そこに入っていたものは、
「私?」
紺色のセーラー服を身にまとった、藍の写真があった。
鬼道学園に来る前まで弓月と住んでいた家を背景に、微かに口元に笑みを浮かべている自分。
それから暫しその写真を見つめて、ハッとした。
高校入学する時、弓月が撮ってくれた写真だ。
物を残したがらない弓月にしては珍しいことに、自分から撮ってやろうと言い出したのだ。
その時藍は不審に思いながらも見つめてくるレンズに笑みを向けた。
だが、何故その時の写真がこの見知らぬ部屋の見知らぬ箱の中にあったのだろうか。
藍が首を傾げる。


