「何かいる。」
歩き始めてから一時間ほどした時。
先頭を歩いていた伊勢千秋が立ち止まった。
何か妖力を感じたのだろうか。
他の班のメンバーも互いに目配せしあっている。
一人何も感じない藍だけがこの状況に取り残されている。
「何かいるの?」
涼しい顔で後ろをついてきていた有明に話しかける。
すると彼はなんともつまらなさそうな顔をしたまま、ほれ、と真正面にある山を指差した。
「ダイダラボッチだ。」
つられて顔を上げて、藍はあんぐりと口を開けた。
山の向こう。
山よりも大きい黒い顔。
そこに、二つの白い目がじっとこちらを見つめていた。
ガツンッ。
その音を最後に、藍の意識は途絶える。


