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寒い夜だった。
日中積もった雪で辺り一面真っ白で、月の光が反射してキラキラと光る。
寒いけど、風のない静かな夜。
空には半月がのぼっていた。
森には黒々とした木に雪が降り積もり、どこか淋しげだった。
静かな夜の雪景色。
一本の木の枝に、一人の天狗が座っていた。
高い鼻。
その目は静かに森を見つめている。
静かな森。
そこにふいに来訪者が訪れる。
サクリ、サクリと雪を踏みしめる音。
段々天狗の方に近づいてくる。
そして天狗がいる木の下でその足音は止まった。
「おーい。そこの大天狗!」
野太い声だった。
人間。
下を見れば髭を生やしたガッチリした男。
黒い翼をふわりと広げ、天狗は木の枝を蹴り、飛び降りる。
ゆるやかな速度で落下。
ふわりと雪の上に着地。
「何用じゃ。戦のことであれば、わしらは手伝いなぞせんぞ。」
天狗が低い声でそう言えば、男はカカッと笑う。
「んなこたぁわかってる。今日来たのは別の提案があるからだ。」
提案。
天狗が目を細めると同時に男も笑いを引っ込めた。


