静かになった部屋でようやく有明が言葉を発した。
「お前さ、俺が見えるってことはアテルイの末裔だよな?」
「一応そうかもって話は出た。」
確証はないけど、と付け足しておく。
何かを探るような有明の茶色い目。
「弓月っていう大天狗知ってんのか?」
「知ってる。私今その人探してるの。」
妖怪をその人と呼んでいいものか。
少し考えたがどうでもいいことか、と開き直る。
「弓月の件からは手を引いた方がいいぞ。死にたくねぇなら。」
脅すわけでもなく、必死に止めているという様子でもなかった。
普通に、平坦に有明はそう言った。
けれども藍にはどうしても弓月が危険なイメージとは結びつかなかった。
彼は屋根の上でピエロ伝道者の言葉を発しながら竹竿を振り回すイメージしかない。
「何、弓月って危険な妖怪なの?」
「危ねえのは弓月じゃねぇ。その上にいる九木だ。」
九木。
最近よく耳にする名前だ。
三大妖怪のうちで二番目に強い。
九尾の狐。


