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夕食の時は実践訓練のことで頭がいっぱいで隣にいる有明を気にかける余裕もなかったが、部屋に戻ると彼の様子が変だということが嫌でも目についた。
藍に実害があるわけではない。
けれども、なんだか落ち着かないのだ。
読んでいた天文学の教科書を閉じ藍は後ろを振り向く。
部屋の隅に茶色い毛玉が置いてあるように有明が膝を抱えていた。
無感情な目でじっと虚空を見つめている。
今日一日ずっとこんな感じだったのだ。
汚い言葉でうるさくわめかれるよりはマシだが、これはこれで気味が悪い。
「有明、あんた、どうしたの?」
尋常ではない有明の様子に藍は思わず声をかけていた。
今まで微動だにしなかった目がキョロリと動き、ゆっくり藍に焦点を合わせてくる。
「なんだよ。」
「用があるわけじゃないけど。有明が静かなのは気持ち悪い。」
「お前失礼だな。」
「何、何か変なことでもあったの?」
じっと茶色い目が見つめてくる。
有明の表情は沈んでいるというよりは何かを隠しているような。
迷っているような。


