紫月の小さな口が動く。
「彼女も大変だな、と思いまして。」
「は?」
「英雄視されたり、疑われたりで。」
桜は目をしばたかせてから、ようやく紫月は有田藍のことを言っているのだと分かった。
「あー、そうだな、うん。」
「信じていますか?」
「は、何を?」
「藍さんが弓月という天狗に育てられたということを。」
ピンと、むせかえる古い紙の匂いの中で、冷たい何かが張り巡らされた気がした。
桜は口元に浮かべていた笑みを消す。
紫月は、俺を試しているのか?
微妙な空気が桜と紫月の間に漂う。
「紫月は信じているのか?」
「はい。」
やけにハッキリと言い切った紫月。
さらに何か言おうと口を開きかけたが、ちょうど同じタイミングでトタトタとこちらに向かってくる足音がした。
二人はハッとしたようにそちらに顔を向ける。


