「何でしょう。」
「竹内家にいる妖怪、牛鬼らしい。確認出来ないか?」
紫月は何も言わず、数秒間千秋の顔を見つめていた。
「誰がそのようなことを?」
「有田藍だ。夕食の席で、彼女の妖怪がそう言っていたみたいだ。」
千秋の言葉に紫月は再び黙った。
そうしてポツリと。
「彼女を呼んできてもらえませんか?」
千秋と桜は思わず顔を見合わせる。
彼女、というのは有田藍のことだろうか。
「一応聞くけど、なんで?」
「藍さんの妖怪と話がしてみたいです。西文家の記録はどこまで正しいのか、確認も兼ねて。」
一瞬口を噤む千秋。
ふいに鼻が痒くなって桜はくしゃみをする。
「じゃ、僕が行くから。」
桜がくしゃみをするのとほぼ同時にそう言って千秋は走り出してしまった。
再びくしゃみがでた。
むずむずする鼻を押さえながら桜は紫月を見やる。
彼女もじっとこちらを見つめていた。
一直線に整えられた髪の下から、黒い瞳がこちらを見つめていた。


