不滅の妖怪を御存じ?




「妖怪が見えるってのは便利だろうな。しかも話せるときたもんだ。」

「妖怪が正直だとは限らないだろ。」


素っ気なく言い捨てる千秋。

その顔は晴れない。
なんとなく、桜にもその気持ちは分かった。
いや、桜だけでなく、鬼道学園に通う生徒全員に共通するだろう。

今までひたすら神経を尖らせて妖力感知の鍛錬を積んできたとしても、有田藍には敵わない。

妖怪と直に話せるその能力は、一瞬でかみの学年に入れるほど有益なものだ。


朝食も、授業中も、休み時間でさえ、生徒は皆ピリピリしていた。
何気ない会話をしている時でも、さりげなく彼女を意識して。
彼女が右隣の何もない空間をじっと見つめている時、少しの尊敬と嫉妬を混ぜた目で。


ふいに鼻がムズムズした。
古い紙がたくさんあるからほこりっぽいのは仕方ないが、桜はこのむずかゆさが嫌だった。

閉じられたふすま。
大きく「一」と書かれている。
第一書庫。

千秋はふすまの前に立つと、呼びかけた。


「紫月。相談したいことがある。」


数秒後。
ギッギッと木の板が軋む音。

段々音が近づいてきて、すっとふすまが開く。

おかっぱ頭。
まんまるい黒い瞳がじっと見つめてきていた。