「当時の記録者も、アテルイのあまりの早口に書き写すのに必死だったようで、内容はほとんど覚えていなかったようであります。そもそも何日もアテルイは話続けたので途中で紙が足りなくなってしまったそうで。けれど一つだけ、覚えていることがあると、日記に記されておりました。」


まさか。

ひくりと、桜の口元が引きつる。

一つの可能性。
なんだかそれは、とても嫌な予感がした。

シトシトと、得体の知れない何かぎ近付いてくる。


紫月の冷たい声が、頭に響いた。



「アテルイは妖怪を、弓月と呼んでいたそうであります。」