「なあ」

「あ、はい!?」

「言い過ぎた」


声に反応してぱっと顔を上げたけれど、瀬戸山は前を向いたまま。そしてぽつりと言葉をこぼした。
突然のことに、言葉の意味がわからず、ぽかんとする。

それを気にせず瀬戸山が言葉を続けた。
ポリポリと頭を軽くかいて。


「お前、俺が松本のこと、えーっと、その好きって、知ってるんだよな」

「……う、ん」

「そんで、ちょっと、いらっとして言ったんだけど。なんか、悪かったなって。俺、思ったら口に出しちゃうから、空気読めないって言うかなんつーか。お前が笑ってくれて、助かった」


意外な謝罪に、「あ、うん」と返事にならない返事しかできなかった。


「でもお前もさ、ちゃんと言いたいこともう少し言えば? 見ててなんかイライラするんだよな」


……怒ってはないけど、あまりにストレートな言葉にちょっとぐさりと胸に突き刺さる。

そんなこと、わかってるもん。


「でも、言わなくていいことも、ある、かも」

「そんなこと言ってると、都合のいい奴に思われるぞ」


わかってるけど。
でも、その場のみんなの笑顔が壊れちゃうかも、と思うとどうしても言えない。

言いたくない。そのほうがいいんじゃないかって、思う気持ちもある。
そりゃ、瀬戸山や江里乃みたいにズバズバ言えるのもいいなって思う気持ちだってあるけど。


「そういや、お前名前は?」

「……黒田、希美です」


さっき自己紹介したんですけど。
あ、でも私も瀬戸山と米田くん以外覚えてないから人のこと言えないか。