「さっきの」

「え?」


生徒会室につくまでなにも言わなかった江里乃が、ダンボールを机に置くとぼそりとつぶやく。
疲れた手をぐーぱーしながら振り返ると、「多分、たまたまだよ」と言った。

意味がわからなくて「なにが?」と聞き返すと、気まずそうな顔で私を見る。江里乃がこんな顔するなんて珍しいな。


「瀬戸山、の」


瀬戸山の名前に思わず「え!?」とちょっと大きめの声で反応してしまったけれど、すぐに意味を理解して、小さな声で、ああ、と返した。


「まだ誤解してるの? 本当になんでもないから」


あはは、と明るく言ったけれど、江里乃はまだ笑わない。
私が瀬戸山を好きだと思ってるから、さっきの瀬戸山の態度によって私がどう思ったのか心配してくれたんだろう。


「ほんとに?」

「ホントだよ、ホント」


笑いながら口にしたけれど、どこか気持ち悪さを感じる。
それを悟られることがないように、大げさに「そんなわけないじゃん」とケラケラと笑ってみせた。

いつも、みんなの話に合わせて適当に笑っている自分みたいに。


「あんな人気者好きになるなんて、あり得ないよ。私が江里乃みたいに可愛かったら話は違うけど」

「そんなことないって」

「それに接点もないんだから好きになりようもないじゃない。江里乃ってば、思い込みが激しいよ」


チクチクチクチク。
言葉にしていることはウソじゃないはずなのに、口にするたびに胸がかすかに痛む。

おかしいな、そんなはずないのに。